だからって終わってるわけじゃない

アラフォー、バツイチ、ヒキニート、だからって終わってるわけじゃない・・からツライのかもしんないけど

沖縄編9 ―モメタクナイ脳―

 

ホテルの前でタクシーを捕まえた。

  

運転手さんは快活な人だった。話しを聞いているうちにあっという間に目的地に到着、メーターを見て私は千円札と端数分の10円玉を置いた。

 

ドアを開けられしばし見つめあう。 

お釣りの「お」と口を開きかけた瞬間、稲妻に打たれた。

 

 

 

(チップか?!)

 

 

 

海外ではサービスの対価として、チップを渡すのが通例だ。沖縄もそうなのではないか、南国だし。運転手さんが不思議そうにこちらをみている。

 

もうこのくらいの釣銭はチップとして受け取る感じなんだ、南国だし!

 

お礼を言ってタクシーを降りた。

 

 

 

ビルに入るとエスカレーターで劇場のあるフロアへ上る。

椅子に座り、魅力的な顔はめパネルを見ていたら 

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ふと昔の記憶がよみがえった。 

 

何年か前、突然プール通いをしたくなった私は水着を買いにデパートへ出かける。

シーズン真っ盛りということもあり、水着売り場は人でごった返していた。売り場中央に専用の試着室、若い女性が列をなしている。

 

私は1着手に取ると(ちょっと合わせるだけだから)と隣の洋服売り場の試着室に入った。

 

下着の上から着ようとするがうまくいかない。しかたなく上裸になって水着と格闘していると・・なにか違和感を感じる。

 

鏡の中に、知らない男がいたのだ。

 

20代と思しき男性は、長身でおそらく試着室の少し離れた場所に立っている。というのも、試着室のカーテン上部に三角形の隙間ができていて、そこに男性の顔がピッタリはまっていたからだ。

 

 

解釈に苦しむ。

 

 

通りかかっただけなら、カーテンをきっちり閉めなかった私も悪い。しかし、鏡越しに見返しても男性は視線をそらそうとすらしない。猫が箱の中からちょっかいをかけてくる映像が浮かぶ。

 

 

こっちから見えていないとでも思っているの?

 

 

困惑していると脳の、おそらく女性的な部分を司る場所から声がした。

 

「カーテンの三角部分を思いっきりしめるべきよ」

 

そうか、普通は「キャッ」とかいって即座に閉める場面だ。

 

 

「だけど失礼じゃない?」

 

脳の、おそらくモメゴトを避けようとする部分を司る場所が反論する。

ものすごく目が悪くて、たまたまぼけーっと見ていた先がこの三角って可能性もあるのでは?でいきなり閉められたら(俺、痴漢と間違われた?!)って思うのでは?(誰がお前なんかみるかブス)ってなるのでは?となると乳を隠そうとすること自体、自意識過剰な行為では?!

 

・・下手したら大騒ぎになる事案。私の乳にそこまでのリスクを背負ってまで見る価値があるとは思えない。

 

なにごともなかったように素早く着替え試着室をでた。

 

男性は水着を物色する女性と一緒だった。

 

(やっぱり、こんなかわいい彼女がいるのに覗きなんかするはずない。)

 

そそくさとその場を去った。

 

 

 

お笑いライブを見終わりホテルに戻った頃には、時計の針は10時を回っていた。

フロントで声をかけられる。

 

「今日タクシーに乗られましたか?」

 

封筒を差し出された。聞くと昼のタクシーの運転手さんが、お釣りを渡すの忘れたからとわざわざ届けに来てくれたらしい。運転手さんの律儀さに感動しながら思わず軽口がもれた。

 

「沖縄のタクシーってそういうものなのかと思いました」 

 

「違いますよ」

 

笑いながらエレベーターに乗る。

そりゃ違うよね~ていうか帰りのタクシーは普通に払ってきたじゃん私。

 

脳の、モメゴトを避けようとする部分を司る場所から声がした。

「でもさ~今回はたまたまでしょ、水着のヤツは違くなくない?だって彼女と一緒だったんだよ?生乳っつったってお前の乳だぜ?どんだけだよ・・」

 

 

「うっさいバカ」

 

呟くと部屋のカーテンをきっちり閉め、ケータイを放りだした。

ベッドに落ちたケータイの画面には、昼間見つけた顔はめパネルの中で微笑む私の姿が映っている。