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だからって終わってるわけじゃない

アラフォー、バツイチ、ヒキニート、だからって終わってるわけじゃない・・からツライのかもしんないけど

犬使いの笛 後編


「824円です」

(はっぴゃく・・中1の私にはちと痛い出費だが、犬笛の力を考えれば安いもの。これさえあれば・・ふふふふふ)

「○▽▲◇■ですか?」

「?はっはい」

「ありがとうございましたー!」

店員めシールを貼りやがった。
よりにもよって犬上家の家宝に・・まぁいい。この笛の恐ろしさを知らない無邪気なおばさんよ。いつしか私は伝説となりその名が轟くことであろう。ある日、テレビで私の姿をみつけ

「ああ、あの時の!せめて袋に入れて差し上げればよかった」

と後悔しても遅いのだ。なんてことを思いつつ母の運転する車に揺られているとあっという間に家についた。私は自室へ駆け上がる。ついに、ついに手に入れた。門外不出のお宝を!魔女でいうところの魔法のステッキ、アラジンでいうところの魔法のランプ、ドラ○もんでいうところの四次元ポケットが


我が手中に


プラスチックのパッケージをはがすのももどかしく、犬笛を手に取る。鉄製のそれは、想像していたよりも重く。掌に冷たく転がった。チェーンを首からかけ鏡の前に立ってみる。





(なにこのブス。)

くせ毛のくせに、当時の流行に合わせて短く切った髪が頭の上で渦巻いている。青いジャージに異様な存在感を放つ犬笛。細長い形状がただでさえ細長い私のフェイスラインを、より細く長く見せてくれていた。片膝をつきそうになるが、きっと漫画やアニメの主人公だってみんな最初はこんなもの。修行を重ねるうちに美貌もおいついてくるはず。私は自分を励まし、鏡の前でポーズをとる。

犬界のニューヒロイン、誕生である。

ポーズを決めたら今度は試す番だ。好奇心旺盛な私はすぐに犬笛を試さずにはいられない。しかし夕方、晩ご飯の時間も近い。犬たちが大量に集まってこられては困る。(加減して、ほんの少し吹いてみたらどうだろう?)階下にいる家の犬たちの反応をみたい。私は軽く息を吸い犬笛を唇にあてた。




スー



あっあれ?もう一回





スー



パッケージ裏の注意書きを読んでみる。”音を調整する際には下のネジを回してください。”
ネジか!!
犬笛本体の下のほうが回るようになっており、どうやらそれが空気の量を調整する役割を担っているらしい。指先でネジを緩め今度は少し強めに吹いてみた。



シュー


しばらく耳を澄ましてみるが、団地のマルチーズどころか家の犬たちでさえワンともスンとも言ってこない。ネジを最大限に緩めたり、ぎりぎりまで絞ったり、次第に大胆になった私は、ベランダに出て肺活量の許す限り力いっぱい吹いてみたりしたが、シューシュー音がするだけ、犬はいっこうに集まらず。田舎の家々から、遠吠え1つ響くことはなかった。そのうち階段の下から「ご飯だよ!!」と母が怒鳴る声がし、私は一旦ベランダの戸を閉め台所へ行く。

「あんたなにそれ」

首からぶら下がった犬笛に、母の冷たい視線が注がれている。私がボソボソと答えると





「またくだらないもんにお金使って!!」






痛いところをズバリ突かれて、返す言葉もなかった。以来、犬笛は机にしまったきり。いつの間にかなくなってしまったが、きっと犬笛が次なる犬使いを待つべく他所の地へ旅していっただと、私は信じている。



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