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だからって終わってるわけじゃない

アラフォー、バツイチ、ヒキニート、だからって終わってるわけじゃない・・からツライのかもしんないけど

母と錦織と松居




母は錦織のファンである。


錦織圭、言わずと知れたトップテニスプレイヤー。世界で活躍する日本人といえばまず彼の名が挙がるであろう大人物である。運動嫌いな母が、いつからテニスに興味を持ったのかはわからない。私がテニス部に入った時は「ユニフォームに靴にラケット・・ああお金がかかる」と嘆いていたことを考えると最近のことであろう。気が付けば試合の予定をチェックし、できうる限りライブで試合を観戦している。



「今日はニシキオリだから早くお風呂入っちゃって」



母は最初、錦織のことをニシキオリと読んでいた。(少年隊かよ)と心の中でツッコミながら風呂のスイッチを入れる。我が家の生活のリズムは錦織が握っているといっても過言ではない。錦織の試合にあわせて夕飯を早めに食べ、錦織の試合にあわせて犬を散歩する。

ある時、夜中ふと目を覚まして眠れなくなってしまった私は、居間でテレビでも見ようかと階段へ向かった。すると階下から



ポッポッポッポッ



と拍手と呼ぶには大げさな音が聞こえてきた。母のかしわ手だった。”拍手”と”かしわ手”漢字にすれば同じだが、母が叩く手の音は、パチパチパチで表される拍手と呼ぶにはゴツすぎる。かしわ手なのだ。一緒に「ブラボー!」と叫んでいたとしても不思議はない。

(また錦織だな)と思いつつ下に行くと案の定、ソファーの中央に陣取った母が背筋を伸ばしテレビと向かい合っていた。横に従えた犬が私を見つけ(なんだお前か)と寝癖の付いた顔を上げてみせる。犬をなでながら母の隣に座ってみた。たまには母の趣味に付き合ってみようと思ったのだ。母は娘の様子など気にする風もなくテレビを凝視、CMが終わると声を張り上げ始めた。

しかし、一緒に見ていたふと疑問に思う。





母は本当に錦織が好きなのか?





サーブが失敗すると

「ああ!もう下手なんだから!!」

点をとっても

「そうだよ、なんで最初からそうしないんだよ!」

とかしわ手を打ちながら叱咤。ちっとも応援していないのだ。それどころかポイントをとられると

「マレーはやるな。ランキング上位は違うよ」

相手選手を褒めている。
そういえば昔から母は褒めることをしなかった。私が作文コンクールに応募して賞をもらった時も「こんな話、誰でも思いつく」と鼻で笑っていたし、テストでいい点とった時は「次はもっと頑張りな」で済まされた。だから、宿題のため私の幼少期の思い出を聞いた時に「お兄ちゃんに手がかかったから、あんたのことは記憶にない」と言われても(まぁそうだろうな)といった感じである。女親は息子がわかいいと言うし、きっと愛情の90%を兄に注いだのだろうと思っていたが、兄も「オカンに褒められたこと?ねーな」と言っていたので、たんに褒めない主義の人だということがわかった。そんなことをボウッと考えていると


「あーイライラする!!」


テレビに向かって叫ぶ母、そんな見方で楽しいのかなと思いながら

二階に引き上げようとすると、ふと妙なものが目に入った。


「・・なにこれ?」
 

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財布にハンカチがかけてある。正確には長財布の3分の1、端の部分が少し顔を出している状態だ。

母に尋ねると

 





「お布団かぶせて寝せてるんだよ!」




えっ?お布団?財布に?なんで?困惑しさらに問いかけようとする私に

「これやっとくと金運上がるって、松居一代が言ってたんだよ!!」

(財布寝かせる前に自分が寝なよ)と思いながら、部屋をでる。お布団かぶって寝ていたのが、3年前に私が母の日に贈った長財布だったので、大事に使ってくれてるだけよしとしよう。階段を上る私の背中に、ポッポッポッポッと母のかしわ手が響いた。

 
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