だからって終わってるわけじゃない

アラフォー、バツイチ、ヒキニート、だからって終わってるわけじゃない・・からツライのかもしんないけど

女図鑑 中

ジャイアンのせいでまた一人辞めることになった。

 

これで私達が来てから二人目の被害者になる。彼女のために送別会を開いた。いきなり序盤からマイクを持って歌い出す。一緒に来た子が「普段はラップを歌うような子じゃないんです」と悲し気に言っていたから、相当参っていたのだろう。

 

今思えばそんな職場でよく耐えたものだと思うが、恋の力は偉大だ。片思いの彼のことで頭がいっぱいだった私は、ジャイアンの素行より「彼に振り向いてもらうにはどうしたらいいか」という点に気持ちが向いていたため、仕事が苦にはならなかった。それどころか「彼に会うためにはここに留まらなくては」と一生懸命仕事に励んだ。

 

ジャイアンは同じリーダー格には愛想良く、下の者・とくに若い女には厳しかった。悪口も、陰で言うか正面切って言うかの違いだけ。ある意味わかりやすい性格だった。60を過ぎているように見えたが気持ちは現役らしく、男性アルバイトに「あはん、うふん」と色目を使うため、男性陣にも違う意味で恐れられていた。

 

スネ夫はというと、ジャイアンの前では一緒になって下の者をいじめるものの、話してみると案外普通のおばさんだった。彼女にも好き嫌いはあるらしく、友達はあからさまに嫌味を言われたが、何故だか私は気に入られ、ジャイアンに叱られた後「頑張れ」とこっそり温泉饅頭を渡されたこともある。(この人は本当は優しい人なんだ。スネ夫を演じているのも、ここで生き抜くための彼女なりの処世術なんだ)と温泉饅頭をかじりながら私は思った。しかしそれが、後々大きな事件を生む。

 

見知らぬ土地、毎日のハードな仕事にジャイアンのいじめ、私達はストレスを発散する必要があった。しかし、私達が働いていた温泉地は、砂漠にぽっかりできたオアシスのような場所にある。街へ行くには車で2時間。ここまでバスで来ている人達がほとんどで、車を所有しているのは、限られた人物だけであった。そこで私達は気晴らしに夜の温泉街に繰り出すことにする。といってもバイト仲間が集まって食べて飲むだけ、酔いが回ってくるとみんなジャイアンから被った被害を話し始めるから面白い。そうしているうち、男性陣と遭遇、一緒に飲む機会も増えた。片思いの彼に会える口実ができたと私は内心喜んだ。

 

そんなある時、女同士で飲んでいたら同じ店にジャイアンスネ夫が現れた。二人は少し離れた席に陣取ると、遠慮もせずにコチラをじろじろ。そのうち酔いが回ってきたのだろう。ジャイアンが「仕事もろくにできないのに、男と遊び歩いていいわね若い子は。」と言い出した。宴会場ならまだしもここは居酒屋だ。散々しいたげられた挙句、プライベートの楽しみまで邪魔されたのであっては黙ってられない。みんなも負けじと言い返す「年増の嫉妬」「弱い者いじめ」「二重人格」攻撃力は弱いが、我慢していた分バリエーションは豊富だ。幸い他にお客はいなかったが、店の中はどす黒い霧がたちこめ険悪なムード、霧の間からいつ焼き鳥がのった皿が飛んで来てもおかしくなかった。

 

緊張状態に耐えられなかった人間がいる、私だ。

 

面と向かって悪口を言い合うケンカなんて小学生以来だ。それに私はスネ夫との仲は良好なのだ、どうしていいかわからない。周りのみんなが戦いながら、「お前も何か言え」と目で合図しているようにみえた。私は「この1杯を飲んでから」と自分に言い聞かせ、グラスを空にし続けた。

 

暗転。 

 

その日の記憶は、誰かと肩を組みながら坂を下っている所で終わった。

  
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