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だからって終わってるわけじゃない

アラフォー、バツイチ、ヒキニート、だからって終わってるわけじゃない・・からツライのかもしんないけど

ワルツは最後にとっておく

出張の多かった父は、いつもお土産に提灯を買ってきてくれた。

15センチ程の提灯に漢字で地名が書いてあるだけのもので、どこの観光地にも必ず置いてあった。今でいうご当地ストラップのようなものであろう。全く実用性はなかったが、少しずつ増えていく提灯を居間の長押(鴨居の上にあるひっかける所)に並べ、色とりどりのそれを眺めながら、地名を順番に読んでいくのが子供の頃の楽しみだった。

しかし子供は成長する。学校で、友達がお父さんのお土産にもらったという小さな宝石箱や、十数色もある特大ボールペンを持って来ているのを見ると、羨ましくてたまらなくなった。

ある時、出張帰りの父が白い箱を差し出した「お土産」ドキドキしながら蓋を開けると、ぺちゃっとつぶれた提灯が入っている。がっかりした私は、

 

 

「たまには違うのがいい!」

 

 

と駄々をこねた。次に出張に行った際父は、兄に提灯を渡した後こっそり私を呼んだ。袋から出てきたのは赤いポシェットだった。コーデュロイ地に小さなクマのぬいぐるみが付いており、父が選んだにしてはなかなか趣味がいい。私は喜び、遊ぶときはいつも使うことにした。しかし、ある時ポシェットがないことに気づく。どこかに忘れてきてしまったのか、探してもいっこうに見つからない。そのうち出てくるだろうとのん気に考えて、別のポシェットをひっかけ遊びに行った。しばらくして、母がポシェットを見つけた。カーテンのフックにかけたまま放ったらかしにしていたのだ。日にさらされ続けたポシェットは、半分レンガのような色になっていた。それからクマのポシェットは押し入れにしまったきりになった。

 

クリスマスに買ってもらったおでかけワンワンも大事にしたのは最初だけ、そのうち犬のオモチャになり、毛を全部むしりとられてしまった。骨だけワンワンになったおでかけワンワンを見て兄は激怒したが、父は何も言わなかった。

 

東京駅で勧められたと、デニム地のバックを買ってきてくれたことがある。ジーンズをリサイクルして作ったような構造に、水色の皮のパイピング、持ち手も同じ水色だった。

「小学生が塾通いに使うようなバックだよ」

と言うと父は

「店の人が、今どきの若い人はみんな持ってるって言ってたんだけどなぁ」

残念そうに肩を落とした。店の人の”若い人”が何才を差すのかはわからないが、私はもう20代後半になっており、そのバックの似合う年はとうに過ぎていた。父がかわいそうになった私は、出掛ける際何度かそれを使ってみせた。

「これ、お父さんが買ってくれたヤツだよ」

ポーズを決めると

「そうだったっけ?」

と言った。本気で忘れていたのかとぼけていたのか、今もわからない。

 

父は恋人のできない私を心配していたが、喜んでもいるようでもあった。娘が外国に強い興味を持っていることは知っている。異国の地に大事な娘をかっさわれてはたまらない。娘の相手は誠実で温厚な日本男児、できれば家の隣に家を建て、婿養子をとるのが望ましい。というようなことを言っていたと、後で母から聞かされた。

 

ある時、私は社交ダンスに興味を持った。父に話すと

「お父さんもやってみたいが、女の人と踊るのはなぁ・・」

と言った。私のシャイは父からの遺伝だと知る。

「じゃあ私と踊ればいいじゃん。二人で練習して結婚式でワルツを踊るの」

映画のワンシーンを思い浮かべていた。

「そうだな、だけどやっぱり恥ずかしいからお前が先に覚えてお父さんに教えて」

「わかった」

その後、私はサルサにはしり、この話は立ち消えとなる。

 

父が「定年の年を迎えたら海外旅行へ行きたい」と言った。私も同意したが、その頃には結婚しているのではないかという話になる。相変わらず恋人不在であったが、楽観的なのは遺伝らしい。私はまた思いつきを口にする。

「新婚旅行で行けばいいじゃん」

「は?お父さんも行くの?」

「行こうよみんなで、広い部屋とってさ」

父が笑った。

 

父からもらったものはたくさんある。お土産に優しい言葉、時にはゲンコツ。酔った父に灰皿を投げられたこともあるし、酔ってゲーゲー吐いてる父の背中に乗りお馬さんごっこをねだったこともある。

 

父が理想的な父親だったのか、私が恩知らずのわがまま娘だったのかはわからない。わかるのは、私が一緒に新婚旅行に行こうと言った時、父が心底嬉しそうな顔をしたってことそれだけだ。

 

いつか私は父の年を追い越すかもしれないし、その前に父と同じ場所へ行くことになるかもしれない。年をとった私を見て父は何と言うだろう?話すことはたくさんある。とりあえず、その時のためにワルツは覚えておこうと思う。

 
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