だからって終わってるわけじゃない

アラフォー、バツイチ、ヒキニート、だからって終わってるわけじゃない・・からツライのかもしんないけど

File No.12 ユミちゃんのお母さん

小学生の頃、ユミちゃんという仲の良い友達がいた。

 

家も近所だったことから母親同士も意気投合。家族旅行を一緒にするほどではなかったが、遊びに来たり泊まりに行ったりしょっちゅう行き来があった。やがて同じ塾に通うようになると親たちは相談し、送り迎えを交代ですることにした。時間も目的地も一緒なのだからその方が効率がいいというわけだ。

 

道路の関係上、私がユミちゃん家の車に乗せてもらう日は歩いてユミちゃんの家まで行くことになっていた。

 

その日も30分前には準備を終えて部屋で時間をつぶしていた。あまり早く行くと居間でユミちゃんのお兄ちゃんやお父さんと会話をしなくてはならず、隠れ人見知りだった私はそれを避けるためいつも約束の時間2分前に着くよう調整していた。

 

漫画を読んだり歌ったりしていたが、なかなか時間が進まない。本を手に取りしばらく読みふけった。さすがにもういい頃だろうと顔をあげ初めて気が付く。時計の針の動きが異常に遅い。

 

十二分に時間をつぶしたはずなのにまだ約束の10分前なのだ。

 

あせった私は何故だか受話器をとってユミちゃんの番号をプッシュした。時計が遅れているという事実を打ち消したかった。「もう~なにしてんの」と笑い飛ばして欲しかった。呼び出し音が途切れユミちゃんの声がする。

 

「あっユミちゃん?まだちょっと早いけどそっち行ってもいいかな?

 

ユミちゃんは言った。

 

「何言ってんの!もう約束の時間10分も過ぎてるよ!さっさと来て!!

 

私は転げるように家を出た。ユミちゃんの家は黒いモヤがかかって見えるほど険悪なムードに包まれていた。遅れたことを謝るが誰も返事をしてくれない。居間には私が来ないことで家族で言い争いがあったような空気が漂っていた。

 

ユミちゃんと無言で車の後部座席に並ぶ。気まずかった。できることならドアを開け静かに道路に飛び降りたかった。自分で蒔いた種とはいえ、あと10分もこんな気まずい沈黙に耐えなくちゃならないのか。

 

「すいませんでした。」もう一度謝るが返事はない。

 

(誰か、何か言って)祈るような気持ちでいると、運転席で黙りこくっていたユミちゃんのお母さんが口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふざけんじゃねーよ!散々人を待たせやがって」

 

 

 

耳を疑った。遊びに行くと手作りのおやつを差し入れてくれる、優しいおばさんだと思っていたユミちゃんのお母さんが、前を見たまま私への罵詈雑言を叫んでいる。

 

 

 

「この常識知らず!時間も守れねーなら塾なんてやめちまえ!」

 

 

あまりの出来事に言葉が出ない。ユミちゃんのお母さんの剣幕に圧倒され、どんどん小さくなっていく私。さすがに同情したのかユミちゃんも

 

「お母さんそんなに言わなくても」

 

と口を挟んだが、その後も怒りは収まることはなく塾に着くまでユミちゃんのお母さんの叫びは続いた。

 

塾。

 

意気消沈した私はプリントに答えを記入しながらも、もう帰りのことを考えていた。絶対ユミちゃん家の車には乗りたくない。こっそり先生に電話を借りると母に迎えに来てと頼んだ。

 

「なんで?ユミちゃんのお母さんの日じゃん」母は取り合ってくれない。

 

そのユミちゃんのお母さんがナマハゲ並みに激怒してんだよ!!叫びたかったがそこは先生の家の居間、近くにおばあちゃんや旦那さんがいてとても恐怖のドライブを説明できる雰囲気ではない。

 

「とにかく来て!」と懇願して私は電話を切った。

 

塾が終わり迎えの車がきた。ユミちゃんに私は「お母さんが来るから・・」と言った。また遅れたらユミちゃんのお母さんに何を言われるかわからない。だけどどうしても足が動かなかった。ぐずぐずしていると入口までユミちゃんのお母さんがやってきた。

 

「カノちゃ~ん、いいから乗ってきな。」

 

2時間前とはうって変わっての猫なで声である。私は恐ろしくなり「おお母さん来ますので」と早口で言った。「今日はおばちゃんの日だから、ね?」「行こう」ユミちゃんとユミちゃんのお母さんに促され仕方なく車のドアを開ける。

 

死刑台に向かう気分だった。

 

車が走り出すとユミちゃんのお母さんは陽気にしゃべりだした。いつもはほとんどしゃべらず私とユミちゃんの会話に笑ったりするだけなのに、テレビ番組のMCよろしくマシンガントークを展開し、しきりと私へ話を振ってくる。

 

自分の親だったら不機嫌顔で無視するところだが、得体の知れない友達のお母さんへの恐怖と自分が怒られた事実を認めたくないという気持ちが勝り、私は笑って受け答えた。はたから見たら楽しい日常の1コマに映っただろう。ユミちゃんだけが冷めた顔でそれを見ていた。

 

バイバ~イまたね♪」「ありがとうございました」

 

家に帰り、ことのあらましを母に話した。「あんたが遅刻したから不機嫌だっただけでしょ」と母はあまり信じていないようだった。


それから数年後、ユミちゃんとの親交は途絶えたが相変わらず母親同士は仲が良く時々お茶を飲んだりしていたらしい。

ある時、仕事を探しているというユミちゃんのお母さんに母が知り合いの会社を紹介することになった。ちょうど事務員を探していたのだ。相手も母の紹介ということですぐに採用してくれたのだが・・ユミちゃんのお母さんは初出勤の2時間後「辞めます」という置き手紙を1つ残し、家に帰ってしまった。

 

遅刻が原因でないのは確かだ。

 

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