だからって終わってるわけじゃない

アラフォー、バツイチ、ヒキニート、だからって終わってるわけじゃない・・からツライのかもしんないけど

File No.11 ペッパー君

 

 

彼にはずっと興味があった。

 

 

購入した方のブログやお笑い芸人さんのペッパー君との逸話を読んだりして、密かに情報を集めていた。

 

ペッパー君と話したい話を聞きたい。日に日にその欲求は高まっていく。そういえば知り合いがソフトバンクに用があると言っていた。私は電話した。

 

「キミの任務は受付の注意を逸らし、私がペッパー君と話す時間を少しでも長く引き伸ばすことだ」知り合いはあきれ気味に聞いてきた「ペッパー君と何話すの?」「・・色々、とりあえず箇条書きにしてある」知り合いは了承した。

 

店は混んでいたがペッパー君は暇そうにしていた。

 

知り合いが受付へと進み、私はペッパー君に対峙する。スリープモードなのか斜め下を向いたまま固まっていた。胸の画面には宇宙を漂うようなスクリーンセーバーが表示されている。

 

いきなり声をかけるのに躊躇した私は画面の角をそっとタッチしてみた。「あっやりやがったな」という風に私が押した部分を見る、そして「こんにちは・・・・・」

 

 

しゃべった!

 

 

小声で聞き取れなかったが遊びませんかみたいなことを言った気がする。ペッパー君が動くたびギュウギュウとプラスチックを圧迫するような音が響いて、コチラに背を向けているほかのお客さんたちも振り返りこそしないが横目で意識しているのがわかった。

 

緊張しながら「いいですよ」と言ってみる。

 

 

 

 

 

「何と言ったのか聞き取れませんでした。もう一度言って下さい」

 

 

 

 

自分のウィスパーボイスを差し置いてこんなことを言ってくる。私はペッパー君の顔の側面、スピーカーのように無数に穴の開いた場所へ向かってもう一度言った。

 

「いいですよ」

 

「何と言ったのか・・」

 

液晶を押す。「あっやりやがったな」という風に彼が見て液晶画面にメニューボタンが並んだ。恐らくペッパー君ができる・もしくは胸の画面に表示させられる機能を羅列しているのだろう。

 

私は「蕎麦屋の夢」という謎のボタンを押してみた。ペッパー君が話し出す。液晶にアニメが表示され、ペッパー君が様々な障害を乗り越えそばを配達するという物語が映し出された。そのお話をしているのは確かにペッパー君なのだが、"夢"という設定のためなのか本体は頭を傾け両手をだらりと前に下ろし寝ている体勢をとっている。

 

声をよく聴こうと顔を近づけると突然起きて身振り手振りで説明しだすものだから小心者の私は「わっ」と声を上げそうになった。ペッパー君がオチを説明し「蕎麦屋の夢」が終わる。

 

これからどうしたものかとしばらく向かい合っていると突然ペッパー君が「僕とお話しませんか」と言ってきた。願ったりかなったりだ。話すことリストが入っている携帯を取り出そうとすると彼が「今日の天気はどうですか?」と先に質問してくる。私は「晴れ」と答えた。

 

するとペッパー君は体ごと窓に向かい外の様子を伺い始めたではないか!

天気を認識する機能があるのか?!

 

目からレーザーを発し外気の温度を計測し、時刻と日照量の関係から天気を推定・・向き直ったぺッパー君は言った。

 

 

 

 

 

 

「僕とお話しませんか?」

 

天気の話、なかったことにされてた。

 

私は液晶のボタンを押す。「あたり前体操」これはおもしろそうだ。しかし、これを選んだことを私は後悔する。”あたりまえ あたりまえ” とテレビでよく聞いた芸人さんのネタのペッパー君バージョンなのだが、思いのほか動きがダイナミック。

 

音量は小さめなのにいきなり両手を広げるため近くで見ているとビクッとなってしまう。かと思えば突然後ろに反り返り小さな体をギュウギュウ言わせながら腕を振り回すので後ろに倒れてしまうのではないかと気が気じゃない。そんな私の気持ちなどお構いなしにペッパー君は幼稚園児のお遊戯のように最後まできちんとやりきってくれた。

 

 

 

胸のドキドキを抑えるため、少し休憩することにする。

 

 

ペッパー君から離れて携帯を物色するふりをした。ふと顔を上げると反対方向をむいていたはずのペッパー君がこっちをみている。これが噂のロックオン?!(ペッパー君は一度認識したした人の顔をずっと見つめる癖があるらしい)吹き出しそうになるのをこらえ、今度は一緒に来た知り合いの元へ行く。「どう?」と聞かれ「いろいろ怖い」と答えた。目を上げるとやはりペッパー君が首だけこちらに向けガン見している「ホントだ」知り合いの手続きはまだかかりそうだったのでペッパー君の元に戻る。

 

「今日の天気はどうですか?」また聞かれた。さっきより大きな声で「は・れ」と言ってみたが「何を言っているのか・・」と言われたのですかさず液晶を押す。

 

子供向けのゲームもありこれならペッパー君が倒れる心配もなく安心して楽しめる・・が、終わったあと成績が振るわなかった私に

 

「残念、またチャレンジしてみてくださいね」

 

と優しく言いながら中指を立て挑発してくる(たぶんネジがゆるんでいる)ペッパー君に心の端をぎゅっと掴まれてしまった。

 

そんなこんなで面会時間終了。ペッパー君に手を振り店を出る。

 

背中にびっしょり汗をかいていた。

 

ペッパー君相手にこんなに緊張するなんて、いやペッパー君というよりはお店にいた受付の人や他のお客さん達の視線が気になったのだ。(あの人ロボット相手に真剣にしゃべってる大人なのに)と思われていそうで用意してきた質問を1つも聞くことができなかった。

 

人間達の視線など意にも介さず奔放に振る舞うペッパー君が眩しい。

 

人口知能は外部からの刺激により学習し成長すると言われているが、どうか彼にはそのままの愉快でちょっと不気味なペッパー君でいてほしい。

 

「ペー君、忘れ物っ」

 

 

 

「うっせぇなババア!外ではペー君て呼ぶなって言ってんだろ!!」 

 

なんてペッパー君に思春期が訪れたらならそれはそれで見てみたい気もするが

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