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だからって終わってるわけじゃない

アラフォー、バツイチ、ヒキニート、だからって終わってるわけじゃない・・からツライのかもしんないけど

ウサギのウズラ

 

 

 

ウサギを拾った

 

 

 

ことがある。何年も前の話だ。庭が騒がしいので見に行ったら、茶色い小さな生き物が走っていて、その後を犬が追いかけていた。ネズミだと思った。あぜ道などでネズミの死骸に遭遇することが、珍しくなかったからだ。ネズミは犬に追い回され「コウ!コウ!」と悲痛な声を上げた。急いで庭に出る。犬を抑えようとするが捕まらない。

 

私はプラスチックの植木鉢を手に取ると、追いかけっこに加わった。時代劇に出てくる「よござんすか?よござんすね?」というサイコロ賭場よろしく、ネズミを植木鉢で確保。そばで「よござんすよ」とでも言いたげに犬が固唾を飲んで待っている。私は犬を家に入れ、植木鉢の中を確認した。・・ウサギ?耳が小さくてわからなかったが生まれて数週間といった所だろうか、掌にすっぽり収まるふわふわを抱え私は途方に暮れた。

 

どうやら近くに巣穴があったのを犬が荒らしてしまったらしい。まだ幼いのに一家離散の憂き目にあわせてしまった責任を、私はとらなくてはいけない。倉庫から小鳥用のケージを出してワラを敷き詰める。体が小さく茶色いので「ウズラ」と名付けた。おやつや食用のワラを用意。水の皿は蹴倒してしまうので、ウサギ用の水飲み器を買ってきた。カゴの中でワラの端を噛んでいるウズラを見ながら

 

 

「ウサギって鳴くんだね」としみじみ思った。

 

 

ウズラはまったく懐かなかった。愛情いっぱいに育てていれば、いつかは心を開いてくれるのではと期待していたが、野生の伝統を重んじるタイプだったらしい。手を差し出せば身をかわす、ウサギ用のリードをつけようとすれば全力で逃げる。柵越しに餌を受け取ってくれれば恩の字であった。ある日、運動の時間と称してカゴから出したウズラを「かわいいな、かわいいね」と追いかけている私に

 

「あんた、顔真っ赤だよ」

 

母が言った。そういえば最近理由もなく咳込むことが多くなった。私はウサギアレルギーだったらしい。事態を重くみた父は廃材を利用し、ウサギ小屋を建ててくれた。高床式の三角屋根。なかなか近代的である。ペンキを塗り、鍵をつけた。ウズラは大きくなり、もうネズミと見間違えることはなかったが、相変わらず私に冷たかった。その頃から夜中、寝ていると妙な音が聞こえるようになった。

 

ゴリゴリゴリゴリ

 

ゴマを擦るような音が一晩中続いた。その原因は小屋を掃除している時に知ることになる。網の上の木枠に噛み跡があったのだ。歯が成長してきてむず痒かったのか、刑務所から脱獄すべくコンクリに穴を掘り続けたクリントイーストウッドのように、脱出を試みていたのかはわからない。とにかく私はウズラの成長を喜んだ。母は「そろそろ野生に返したら」と言ったが、箱入り娘のウズラちゃんが外の世界で生きていけるか心配だった。兄は「あれのどこがかわいいんだ」と言ったが、それは無視した。とりあえず冬を越してから考えることになった。しかし別れは突然くる。

 

 

 

「ウズラちゃ~ん、ご飯だよ~」

 

 

 

いつものようにワラをかたずけて餌を入れる。ウズラは小屋の端っこで見ているのだが、その日は違った。私の横をすり抜け外に飛び出したのだ。単なる偶然かはたまた看守の目を誤魔化すために、自分の身代わり人形を作っていたクリントイーストウッドのように、虎視眈々と脱獄の機会を狙っていたのかはわからない。とにかくウズラは外に出た。その場で2,3度ジャンプする。こんなに大きくなってたのか、素直な感想だった。もはや植木鉢で「よござんすか?」はできそうにない。

 

私は大声で母を呼び、ウズラが道路の方へ行かないよう協力を頼んだ。二人で両手を広げながらじわじわと山の方へ追い立てる、何故だか心の中で(カバディカバディ)と呟いていた。ウズラは勢いよく跳ね山道を上って行った。

 

それから数ヶ月たったある春の日

 

二階の窓から外を眺めていると、山道につながる砂利の上にウサギがいた。背伸びするように足を延ばしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウズラちゃん?!ウズラちゃんなの?!!」

 

 

 

 

 

 

私は叫んだ。ウサギは直立不動である。そのうち階下で犬が騒ぎ始め気配を察したのかウサギは、ザッと砂利を蹴り草むらに姿を消した。

 

家族にその出来事を話すと兄が「大事に育ててもそんなもんか」と言った。立派に成長し、冬を越した雄姿を見せにきてくれたのだこんな嬉しいことはない。「そいつが本当にウズラかわかんねーだろ」あれはウズラだ。私にはわかる。あんたもいつか親になったらわかるだろうよ。と思いながら私は言った「うっせバーカ」

 

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