だからって終わってるわけじゃない

・・からツライのかもしんないけど

File No.1 アクロバティック大家さん

以前住んでいたアパートは2階だった。築10年を過ぎていたが、手入れが行き届いていて入居する前、中を見せてもらった時も古い印象はまったく感じなかった。

 

 

しかし、住んでみるとちょいちょい不具合がでてくる。

 

 

引っ越しが完了して3日目。

トイレの換気扇が回っていないことに気がついた。大家さんに連絡するとすぐに見に来てくれるという。大家さんは高齢で足が不自由だったため、てっきり業者の人を連れて来るのかと思ったが、大家さんは小さな工具箱を抱えゆっくり階段を上ってきた。

 

トイレにつくと換気扇が回らないことを確認、換気扇のカバーをはずそうとするが届かず便座に足をかけ手を伸ばしていた。なにかないかと私がそこらを見回しているうち、大家さんは棒で換気扇のカバーをつつき始めた。(一体そんな棒どこにあったんだろう)とよく大家さんの手元を見てみると、タワシのようなものを掴んでいる。

 

 

 

 

 

トイレ掃除用のブラシだった。

 

 

 

 

「だめだなこりゃ、明日ハシゴ持って来てやり直しますよ」

 

 

 

と言われたが、先ほどの光景が目に焼き付いていてそんな言葉など右から左だった。

 

翌日、よたよたと梯子を抱えながら大家さんがやってきた。

 

今度は万全の準備をしてきたようでカバーを外すことができた。どうやらホコリがつまってファンの動きを妨げていたらしい。もう大丈夫と言われ玄関まで送る。

 

「あとあそこら辺、掃除しといて下さい」

 

と言って大家さんは帰っていった。

トイレのドアを開けたらホコリの塊がそこら中に散らばり、換気扇だけがウィンウィン張り切って動いていた。

 

洗面台の蛇口をいくらきつく締めても水がポタポタ出てくるようになった。

 

やはり大家さんがやってくる。蛇口を外して取り付け「直った。」と言って帰っていったが、数日後またポタポタ。再び大家さんに電話。大家さんは軽く工具で蛇口をいじったりした後

 

「これは業者よばないとダメなんだ。」

 

と言った。

 

(じゃあ呼べよ)

 

と思ったが、シャワーと蛇口を切り替えるつまみを真ん中あたりにしておくと水圧がいい感じに保たれるからこれならポタポタしないと言われ、じゃいっかと玄関まで見送った。結局ポタポタしていたが・・。

 

別れた後も心配で、いつも大家さんが階段を下り切るまでドアの隙間から見ていた。もういっそ最初から業者の人を寄越して欲しかったが、現場主義が信条なのかいつも大家さんがやってくる。そのうち不具合があっても電話をかけることを躊躇するようになった。もしそれが大家さんの作戦だったとしたら効果絶大である。

 

ある時、アパートの外壁を塗り直すというお知らせがポストに入っていた。

 

建物を覆うように足場が組まれ、2階の私の部屋でもしばらくは洗濯物を外に干せない。作業員の人達が帰った夕方、ようやくカーテンを開けボウっとテレビを見ていたら、視界に人の姿が入ってきた。窓の外に誰かいる。何気なさを装って首を向けると

 

 

 

 

 

大家さんがいた。

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工事の進捗状況を見ていたのか、試しに足場に上ってみたら引っ込みがつかなくったのかアパートを一回りしてきたようであった。空中をゆっくり横切っていく大家さん。危なっかしくて叫びながら家の中に引っ張り込みたい欲求にかられたが、驚かせて落ちてしまったら元も子もない。私はアワアワしながら大家さんが通り過ぎていくのを見守った。

 

その後、無事大家さんは階段に辿り着き軽トラにのって帰っていったが、私の心臓はしばらくドキドキしっ放し元気なお年寄りに冷や水浴びせかけられた事件だった。 

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