だからって終わってるわけじゃない

・・からツライのかもしんないけど

アニサキスハル6 ―濡れネズミ―

 

兄の提案で犬達を川に連れて行く。

 

山の中の清流なのに足場はコンクリートで整えられていて、犬を遊ばせるにはうってつけの場所だ。

 

蝉がうるさいくらいに鳴いている。

 

おしとやかな見た目とは裏腹に、実は泳ぎが得意なヒメちゃん。つくなり川に飛び込んでプカプカ浮いていた。

 

怖がるかと思ったハルも自分から水に足をつけ、そのままほふく前進。風呂に浸かったおっさんのような顔をしている。

 

しばらく浅瀬で遊ばせていると、岸で休んでいたヒメちゃんと兄が対岸を探索するため歩き始めた。

 

ハルも後を追おうとして

 

 

どぼんっ

 

 

いきなり深みに落ちる。慌てて手を伸ばすが、ハルは対岸を目指し前足を掻いている。

 

(なんだ泳げる・・の?)

 

様子をみていると

 

f:id:kano8:20180823113911j:plain顔だけだした姿勢で、くるくると回転しながら流されていった

 

 

 

 

 

「おおおお溺れてるだろ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

帰りの車中

 

遊び疲れた犬達は、後部座席で寝息をたてている。

 

「パンツまでびしょ濡れなんだけど」

 

「・・すいません」

 

結局全員濡れネズミ

兄妹してハルを救出に走り、水に浸かったのだ。

 

本人に自覚があるかは別にして、溺れかけたのは事実

そばにいながらこの失態、保護者の一人としていかがなものかと

家に着くまで兄にチクチク責められた。

  

アニサキスハル5 ―空気を読まない空気―

 

ハルはすくすく成長した。

 

丸い顔に低い鼻、短い尻尾をクイッと動かして喜びを表すしぐさや

時折、笑いすぎた人のように「ゴッ」と鼻を鳴らすくせも愛嬌があってかわいらしい。

 

ただ気になったのが

 

オナラの頻度だ。

 

毛の長さの違いなのか、高貴な出のせいかヒメちゃんのオナラはほとんど聞いたことがないのに比べ、ハルのオナラはしょっちゅうだ。調べてみると、鼻の低い犬種は空気を吸い込みやすいためどうしても回数が多くなるとある。

 

しかし本人はいたって健康

 

弊害といえばワクチン接種を受けたあと

f:id:kano8:20180820145247j:plain

オナラが止まらなくなり、説明を聞いてる間中

笑いをこらえるのが大変だったことぐらい

 

 

いつしかみんな、ハルのオナラを気にもとめなくなっていた。

 

 

ある日、テレビを見ていると

兄の好きな映画がやっている。

 

マイドッグスキップ

 

少年と犬との心温まる交流を描いた実話らしい。

ありがちといえばありがちな話だが、兄が久々に見たいと言うので

みんなで見ることに。

 

少年の元にジャックラッセルテリアがやってきて、少年はスキップと名付ける。いたずら好きだが賢いスキップのお陰で、退屈だった彼の日常が彩られていく・・。

 

ハルも画面の中で走る犬を追いかけたり、鳴き声に首をかしげたりしていたが

 

そのうち兄に抱っこされたまま寝てしまった。

 

物語はクライマックス

 

悪者にケガをさせられ瀕死のスキップに少年が語りかける。

 

 

「ピピッピピピピピ」

 

 

 

 

 

 

 

「くさっ!!」

 

 

一番いいところでオナラ。

出所はもちろん兄に抱かれたハルの尻だ。

 

「手にオナラの感触あったぞ」

 

どうでもいい報告をしてくる兄、目じりが光っていた。

その涙が映画のせいなのか、オナラが目にしみたせいなのか追及したいところだが

 

ここは空気を読んで笑っておく

  

  

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アニサキスハル4 ―テリア気質―

 

ハルを迎え数週間。ヒメちゃんの嫉妬はエスカレート

兄をめぐる女の戦いは熾烈を極める

 

 

かに思われたが・・

 

 

 

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 新人の徹底した低姿勢により、収束。

 ヒメちゃんがすねることはなくなった。

 

夜、1人遊びが好きなヒメちゃんはぬいぐるみ相手にマウンティングをする。

幼いハルは、とにかく誰かと遊んでいたいようだ。ひとたびオモチャを投げるとダッシュで持って来てまた投げろという。これが延々終わらない

 

「また~?もう勘弁して」

 

私が辟易していると兄が言う。

 

「テリア気質だな」

 

テリア気質とはテリアの血をひいた犬種に共通する性格のことで、繰り返し同じ遊びをしたがるハルの性格もそこからきているらしい。

 

そんなものかとなんとなく納得していたら

父が酔って帰ってきた。

 

歓迎する犬達を受け流し、床に寝転がる。

水を汲みに立つ私

 

「うーん」

 

うめき声を聞いて振り返ると、ハルが父の顔を舐めていた。

 

それはもう熱心に。

 

もし猫だったら父の顔面はズタボロになっているくらい執拗に 

 

 

「テリア気質だな」

 

 頷く兄

 

(言えば済むと思ってないか?)

微かな疑念を抱いていると

 

ハルは父の皮脂を奪い気が済んだのか、今度は寝落ちしそうな父の手にオモチャを運んできて投げろと催促しだした。

 

なるべく遠くに放って時間を稼ごうとする父

 

「ほーら、持って来い」

 

オモチャはうまい具合に向こうの部屋まで飛んで行く

 

 

ハルがあっという間に戻って来た

そして走って来た勢いそのまま

 

 

 

 

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強烈なボディを食らった父は悶絶。

 

ハルもさすがに反省したのかオモチャを放り、父の元へ・・

 

そして耳をペロペロ

 

「も、やめてん・・」

 

一部始終を見ていた兄がしみじみ言う。

 

 

「面倒見いいよな」

 

 

(そこはテリア気質じゃないんかい!)

親バカ全開の兄に、みんなが心の中でツッコんだ。

  

 

アニサキスハル3 ―キャバクラの人間模様―

 

ヒメちゃんは、我が家で初めて迎えた血統書付きのワンコだ。

 

父の知り合いがオスとメスを飼っていて、子犬が産まれたからと1匹分けてくれたのだ。

 

家では野良育ちの流れ者や引き取り手のない雑種犬しか飼った経験がなかったが、それだけ犬の扱いには慣れている。血統書なんて付いてようがいまいが関係ないと思っていた。

 

しかし、ヒメちゃんは今まで飼ったどのワンコとも違う。

 

賢くすぐに人の言葉を理解できるのだが、気分屋で怒りっぽい。

呼んでも来ないし、寝てる頭をなでようとすると「ギャウ」と怒られる。

 

気位の高いお嬢様といった感じだ。

 

みんな最初戸惑いはしたものの、ヒメちゃんのツンデレな性格の虜になった。車も平気だったので色んな所へ行った。海に山に湖に、ヒメちゃんは家の末っ子としてみんなにかわいがられていた。

 

そこへ突然、ライバル登場である。

 

内心気が気じゃなかっただろう。

 

兄はなるべくヒメちゃんを優先しようと心がけていたが

子犬は手がかかる。

 

「ハル、ミルク飲もっか」

 

「ハル、おもちゃだぞ~」

 

(アイツこないだまでアタシにメロメロだったくせに、白黒にかまってばっかじゃない。気に入らねぇ)

 

と思っていたかは定かじゃないが、ヒメちゃんはすねた。

 

たびたび居間の隅っこや廊下で、これみよがしにすねてみせた。

兄が機嫌をとろうと近寄っていく。

 

「ヒメちゃ~ん、どうしたこんなところに座って。こっちでみんなと・・」

 

 

 

「ギャワン!」

 

「いってー、咬まれた」

 

痛がる兄にオモチャを見せようと運んでくる子犬。

 

不動のナンバー1が天真爛漫な新人に嫉妬、店長(兄)は板挟み

 

 

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キャバクラの人間模様をみているようだった。

  

 

アニサキスハル2 ―あからさまに嫌そう―

兄と犬との出会いは突然だった。

 

家族でドライブしてた際、たまたまわんわんフェスなる看板を見つけて寄ってみることにしたのだ。

 

「色んな種類のワンコが集まってるんだって」

 

「ボステリいるかもな」

 

兄はジョジョの奇妙な冒険を読んで以来、ボストンテリアという種類の犬にぞっこんだった。今でこそ公園でボステリを連れた人に出会うこともあるが、当時はまだ珍しく、近くのペットショップでボステリを置いているところは皆無。

 

今日こそ実物を見れるかもしれないと、兄は浮足立っていた。

 

広い会場は人に埋め尽くされている。

 

ワンコの姿は見えなかったが、漂う獣臭に彼らの存在をはっきり感じることができた。

 

「アルパカだ!」

 

さっそくはぐれる私

 

しばらくアルパカをもふもふさせてもらい満足すると、会場をめぐった。半分はミニ動物園、残りの半分はペットショップが出店していて、財布と環境さえ許せばその場でワンコを家族に迎えることができるらしい。

 

様々な種類の子犬達に目を細めていると

少し先に兄がいた。興奮気味に手招きしてくる。

 

「いたぞ」

 

兄の目の前のケージに小さな白黒の塊がある

(ハムスターみたいだな)

 

「どうする?」 

 

「どうするって・・まさか」

 

ケージの下についた値札を真剣に見ている。

 

「飼わないよ!」

 

ぴしゃりと言ったのは母だった。

私達の思惑を察して、異を唱える。

 

「俺が面倒見るし、病院とかかかる費用も全部もつ。」

 

「そんなこと言っていっつも最初だけでしょ、昼間めんどう見るのはお母さんなんだから」

 

「でかくならない種類だし、手かからないって」

 

「でもねぇ!」

 

「ちょっと抱いてみますか?」

 

ここが勝負時と判断したのだろう、ワンコの管理をしているらしき女性が白黒を腕に抱えている。

 

「抱いたら情が移っちゃう、いいですいいです・・あらかわい」

 

母、陥落。

手続きを済ませ車に戻った。

 

「ただいまー」

 

「なんだ?!飼っちまったの?!」

 

後部座席で寝ていた父が飛び起きる。

 

「知らねーぞ、ヒメちゃんに怒られても」

 

父の横にはそれまで兄の寵愛をほしいままにしてきた犬、ヒメちゃんが座っていた。

 

「だーいじょうぶだって」

 

ケージから子犬を取り出し、嬉しそうに自分の鼻と子犬の鼻をくっつける兄

 

「これからよろしくね」

 

と子犬の尻をヒメちゃんの前に持ってくる。

 

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 (・・あからさまに嫌そうだな)

あそこまで気持ちが顔に出てる犬、初めて見た。

  

アニサキスハル1 ―ちょうどいい季節―

兄は犬が好きだ。

 

昔っから動物がたえなかった家なので自然といえば自然なのだが、いい年して浮いた話の1つもないせいか兄の犬熱だけが年々高まっているように思う。

 

休日の昼間

 

ふと見ると膝に犬を乗せ、世界の犬図鑑をめくっている。

車の助手席にはワンコ用のシートを設置し、ドライブ中犬が少しでも快適にすごせるように工夫した。

 

 

「お前はかわいいなぁ、チュッチュッ」

 

 

信号待ちの間、寸暇を惜しんで犬とイチャつく兄

後部座席からそそがれる私や母の冷たい視線など気にもとめない。

 

兄と犬はいつも一緒

それは寝る時も例外ではなかった。

 

夜、居間で爆睡している犬に兄が猫なで声を出す

 

「ほ~らハル(犬の名前)寝る時間だよ~」

 

目は開けるが犬は動こうとしない。

 

「しょうがないんだからぁ」

 

兄が犬を抱え、犬も待っていたかのように

「クー」と言う。

 

その一連の流れを毎夜見せられる私と母。

平和だ。平和だがゆがんでいる。

 

犬は江戸時代の将軍に捧げる宝物のごとく大事に大事に抱えられ、そのまま兄の布団まで運ばれる。

 

ハミガキを終えた私も、自分の部屋へ向かい階段を上った。

扉に手をかけると隣室から声がする。

 

f:id:kano8:20180814235146j:plain 確かに最近すっかり秋めいてきて、昼間は温かいが夜は冷える。誰しも毛布を出そうか迷う頃合いだ。

  

きっと暑い夏にはしんどかった犬の体温も、冷えた布団に心地よかったのだろう。

 

 

 

(つき合いたてのバカップルかよ)

 

 

 

私は心の中でツッコミをいれ、自分の部屋に入った。

  

火を使わないフランス料理

 

ハルミちゃん家に遊びに行くと

たまにハルミちゃんのお姉ちゃんも加わることがあった。

 

お姉ちゃんのヨシミちゃんは強気なハルミちゃん

とは違い優しい性格だった。それに

 

新しい遊びを考える天才で

 

お母さんのメーク道具を使って

バービーちゃんを夜の女に変身させたり

 

2段ベッドで寝る姉妹を男役の私が訪ねていく

愛人ごっこなど

 

私達には思いつかないような遊びを提供してくれた

 

正直、あまり楽しさはわからなかったが

姉のいない私には年上の二人にかまってもらえる

だけで嬉しかった

 

「今日はフランス料理ごっこしよう」

 

ヨシミちゃんがまた思いついたらしい

私達は喜んで提案にのった

 

設定は私が男で、彼女役のハルミちゃんとの

デートにレストランへ行くというもの

ヨシミちゃんはシェフ役である

 

「料理するの?」

 

「でも、お母さんいないし火使うのは危ないよね」

 

「任せて」

 

シェフが台所でガタガタやっている間

私とハルミちゃんは首にネクタイを巻きつけたり

胸にティッシュをいれたり入念におめかしをした

 

ヨシミちゃんの合図でお芝居が始まる

私は男の声を作って言った

 

「今日は特別だからね」

 

「え~楽しみぃ」

 

ハルミちゃんと腕を組んで居間に入っていくと

 

テーブルにナイフとフォークが並んでいる

 

「ステキなところねぇ」

 

「ワインでも飲もうか」

 

ワイングラスにコーラを注いで乾杯する

ヨシミちゃんがお皿を持って現れた

 

「本日のメインディッシュでございます」

 

f:id:kano8:20180716001713j:plain

「わー・・」

 

火を使わず

 

という条件をクリアしたところは

さすがだが・・

 

妹のハルミちゃんでさえひいている

 

「どうぞ」

 

ヨシミちゃんは一流シェフの笑みをたたえつつ

私達が食べるのを待っている

 

(・・こんなん食えないよ)

 

幸い皿は1つ、ここはハルミちゃん

にひきとってもらおう

 

「キミから食べ・・」

 

「あっ私ダイエットしてるんだったわ

あなた全部食べてくださっていいわよ」

 

(なにぃ?!)

 

先手を打たれた

 

ワンプレートに生卵と梅干し、見れば見るほどグロテスクだが

 

せっかくヨシミちゃんが作ってくれたのだ

一口も食べないのは悪いだろう

 

「・・いただきます」

 

渋々ナイフとフォークを取る

いきなり生卵にいく勇気はなかったので

 

横の梅干しを食べた

 

「あまっ」

 

「そちらはフランス産の梅干しに砂糖を

まぶした一品です」

 

(フランス産の梅干しってなに?!

なんで砂糖まぶしちゃうかな!!)

 

結局、卵もすすることになるだが

 

お腹の中でコーラと梅干しと生卵が

同居していて平気なわけもなく

 

私は用事があるとかなんとか理由をつけて

家に帰り、夕方まで寝込んだ

 

(恐るべきヨシミちゃんの発想力)

 

しかし、ヨシミちゃんの本当の恐ろしさはこんなものではないことを、後々身をもって知ることになる

  

 

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