だからって終わってるわけじゃない

・・からツライのかもしんないけど

アニサキスハル19 ―妙案―

 

ハルが亡くなってさらに数ヶ月が過ぎ

みんな自室で眠るようになっていた。

 

夜、兄はタブレットで犬の動画をみている。

 

直後はみるのも辛かったはずで、入院中に撮ったハルの写真も全部消したと言っていたのに

  

それからアイパッドが頻繁にプンと言うようになった。

兄がメールで誰かとやり取りしているのだ。

 

友達とは定期的に長電話しているから

新たな友達ができたか、何かの業務連絡的なものをしているのだろう。

 

母が風呂に入っている間、リンと遊んでいると

 

 

「明日、ドライブ行かね?」

 

 兄が言った。

  

「どこに?」

 

「・・〇〇県、帰りは夜になると思う」

 

 

 

 

 

「犬でもかった?」

 

 

 

「なんでわかった?!」

 

バレバレである。

兄の見ていた動画はボストンテリアの子犬達

頻繁なメールは恐らくブリーダーさんと連絡をとるためだろう。

 

「すげーな」

 

私の推理を聞いて関心しきりの兄だが

肝心なところが抜けている

 

「お母さんに何ていうの?」

 

母はもう二度と動物は飼わないと言っていた。

動物が死ぬたびに言っているのだが、新たな家族を迎え入れるのに蚊帳の外ではさすがにまずいだろう。

 

 

 

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(さてはバカだな)

 

帰宅ラッシュの時間と重なり、目的地に着くまで2時間かかった。

運転席の兄はハルがいなくなり、元々薄かった感情がさらに薄れていったこと

 

何を食べてもおいしくない、映画を見てもつまらない。お笑い見ても笑えない。仕事がどうでもよくなって、初めてヤバいと思ったことなどを

 

淡々と話した

 

 

「こんなん捨ててあるわけないでしょ!!」

 

案の定、家に帰ると母は激怒

しばらくヘソを曲げていた

 

子犬は見た目こそハルにそっくりだが性格は違う。

 

時おり手がつけられない程ヤンチャで

リンに怒られてもどこ吹く風で突進していく。

 

家の中は一気に騒がしくなり

兄の鼻や唇には常に赤い噛み跡がついていた。

 

「ごはんだぞ~」

 

「ハルはドッグフードよくこぼしてたよね」

 

「あっウンコした!ケツふくからティッシュとって」

 

兄はあまりハルの話をしなくなった。

   

アニサキスハル18 ー忍び寄るペットロスー

 

ハルがこの世を去って1週間が過ぎた。

 

母は私のだらしなさを嘆き、兄は憎まれ口をたたく。

いつもの日常が戻っていた。

 

かに思われたが

 

「おやすみー」 

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あれからずっと居間で寝ている。

リンと一緒に寝る権利を奪い合った末の雑魚寝だったが・・

 

おかげで母と私は寝不足になった。

兄のイビキがうるさ過ぎるのだ。当の本人は耳栓着用で涼しい顔である。

 

 

昼、兄がネットで電子フォトフレームを物色していた。

私は昔もらったやつがあるのを思い出し、ハルのデータを入れて居間に設置してあげた

 

しかし

 

あんなにほしがっていた兄がろくに見ようともしない。私も私で兄に文句を言うでもなく、雪の中駆け回るハルやヒート時にはかせたフリフリパンツで眠るハルのスライドショーを見て微笑んでいた。

 

 

 

 

「リンちゃ~ん」

 

母は時々思い出したようにリンに甘える。

 

 

みんな、ちょっとづつおかしかった

 

 

 

 

ある日のホームセンター

 

兄がぬいぐるみを掴み考え込んでいる

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「・・抱いて寝るには軽いよな、砂でもつめるか」

独り言の内容が怖い。私はその場をそっと離れた

 

別の日、珍しく上機嫌で帰ってきた兄

 

「ほうらリン、お土産だぞ」

 

 

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(ダサッ!!)

 

ありあまる愛情が、兄を奇行にはしらせる。

   

 

アニサキスハル17 ―あきらめない―

ハルは社交的な犬だったが、いつも歓迎されるわけじゃない

 

散歩中

 

出会ったワンコにご挨拶しようと、耳を倒し頭を下げて近寄っていくが必ず「ギャワ」と怒られる。向こうにある程度臭いを嗅がせてからアクションを起こそうとしても「ギャワ」

 

低い鼻で臭いを嗅ぎに行くと自然、顔を近づけることになるのだが、大きな瞳で正面から見据えられるもんだから相手はイラっとするらしい。

 

ペットショップなどに行っても

 

さっきまで愛らしい姿で遊んでいた子犬たちが、ハルが顔を見せただけで半狂乱になって怒り出す(他の犬はスルー)

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怒る子犬たちに戸惑うハル、泣いた赤鬼みたいでちょっと不憫だ

 

それでもハルはあきらめない

 

犬は遊びの誘いをする時フセの姿勢でお尻を高く上げ、前足をならす

 

出会う犬出会う犬にタタンッ、タタンッとやってきたf:id:kano8:20181107215854j:plain

のってくれたのは旅先で出会ったパグ兄弟と若いラブラドールだけだったが 

ハルのあきらめない性格は人としても見習うべきところがある

 

そんなことを思いながら眠気に耐えていると

 

朝方、ふらふらとハルが近づいてきて

番をしていた私に体をくっつけた。

 

(やっと落ち着いたかな)

 

と思った矢先、異変にきづく。

 

 

 

「息してない!!」

 

 

 

仮眠していた兄が飛び起きた。

 

「さっきまで、起きてて、いま、私のそばきて寝たとこだったのに、急に」

 

説明する私の横で兄がハルを抱える

 

「ハル、ハル」

 

体をゆするもすでに力はなく

兄の腕の中でぐにゃりと曲がった。

 

 

 

「死んじゃった、死ぬと思ってなかったのに、死ぬと思って・・」

 

取り乱す私の横で、兄はハルを呼び続けた

 

 

そして

 

 

 

 

 

ハルの鼻を口に含んで息を吹き込む

 

 2度,3度とくり返す

 

 「ゴッ」

 

ハルは咳込むように息をして、また動かなくなった。

 

人工呼吸を続ける兄を母がとめた。

 

「もう逝かせてあげよう」

 

あたりが明るくなるにつれ、ハルの体は冷たく固くなっていった。

だけど耳だけは生きている時と同じくやわらかいまま。

 

父が死んだとき、無意識でハムハムしてた耳を

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兄はずっと触っていた。

 

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朝、ハルの亡骸を箱に入れる。

 

知り合いにペットの火葬場を教えてもらい

家にきてもらった。

 

数時間後、ハルは小さな骨壺に入って戻ってくる。

   

アニサキスハル16 ―入れ替わってる―

獣医さんから電話がくる。

 

明日手術になるかもしれないと言われ、家族でかけつけた。透明の扉越しのハルは朦朧としていて「とにかく出しやがれ」としゃがれた声で鳴いている。

 

点滴を抜かないように付けられたピンクのカラーが似合いすぎだ。

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すかさず携帯で写真を撮りまくる兄

 

 

 

「ハル、俺だよわかる?」

 

兄の声を聞きようやく私達の存在に気づいたのか鳴くのをやめ、尻尾をくいと動かした。

 

「もう少しで帰れるからな、がんばれよ」

  

「は?もう帰るし」

 

扉をひっかくハルを兄は笑って諭していた。後ろで見ていた私と母はハルの衰弱ぶりにショックを隠せない。

 

寂しくないよう臭いのついた毛布とお気に入りのオモチャを差し入れて帰る

 

 

 

翌日、手術は行われなかった。

 

 

 

容態が悪化したのだ。

改めて手術日を設定、病院は休みになるのでその間一時帰宅してもいいといわれた。

 

抱いて帰る。

 

夕方の町は、仕事が終わり家路を急ぐ人たちの車で込み合っていた。窓に映る景色を指しながら

 

「ほらあそこ、ハルの好きな公園だよヒメちゃんとよくいったよね」

 

「ハル、でかい犬が散歩してるぞ」

 

話しかけてもハルは私の腕の中でじっとしていた。

あんなにドライブが好きだったのに

窓の外を見ようともしない

 

「慣れない入院生活で疲れたんだろ」

 

明るい声が空々しく響く。

 

家に帰るとリンが待ち構えていた

駆け寄るリンを無視してソファーに行くハル。そのままパタリと臥せってしまう。

 

「リンちゃん、お姉ちゃん大事な手術ひかえてるから今日は静かに寝かせてあげようね」

 

床に柵をめぐらせ、ペットシーツをしきつめた。

 

ハルは舌を出して荒い息を繰り返していたが、時折いてもたってもいられないという風に歩き回ろうとする。そのたびに水を手に汲んで口にふくませたり、毛布の方へ誘導したりした。

 

母が布団を持ってきて交代で番をする。

 

夜中、うたた寝してしまった母が目を覚ますとソファーの上にハルがいた。

 

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と思ったらリンだった。ハルは柵の外に座ってる

 

暗がりで似たような顔の2匹が入れ替わっていたため勘違いしたのだ。

 

「何してるの?」

 

母の問いに応えることなく元の場所に戻っていく2匹。何故そのような行動をとったのかは、結局わからないままだった。

   

 

アニサキスハル15 ―キョキョ鳴き―

 

ハルが入院した。

 

朝、元気がなかったため

病院に連れて行ったところ

即入院と告げられたのだ。

 

「今思えばあのうれションも

体の変調からきてたのかな」

 

「あの時すぐ診せてれば・・」

 

 

「そんなこと言ったって仕方ないだろ!」

 

 

そうだ、後悔したってハルが良くなる

わけじゃない

 

しかし

 

家で甘やかし放題のハルが狭いケージに

何日も入っていられるだろうか

 

兄はお見舞いに行こうとしたが

迎えに来てくれたとぬか喜びさせるのは

かえってかわいそうと私と母で説得した。

 

数日後、検査の結果だけ聞きに行く

先生の表情は暗い

 

「すぐにでも手術をしたいところですがキョキョ体力がおちてますし年齢的にみても術後 キョキョ生存の可能性は50%キョキョキョキョキョキョあるかないか・・」

 

「・・そうですか」

 

「手術中にキョキョキョキョ死んでしまう可能性もキョキョないとはいえません。」

 

「あれ、ウチのですか?」

 

「ハルちゃん、ケージがイヤみたいで朝からずっと」

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 深刻な話の後ろに響くハルのキョキョ鳴き

 

準備のため手術や治療にかかる費用の概算をだしてもらった

 

人間のように健康保険制度のない動物は

ちょっと医者にかかるだけで、5・6千円は

軽くとぶ

 

ましてや入院・手術となれば

うん十万

 

身も蓋もない言い方をしてしまえば、大金かけて手術したところで生きられる保証はないということ。

 

直接的な表現はさけていたが、手術をせずに連れ帰るという選択肢もあると獣医さんはいっていた。

 

 

 

「やって下さい。」 

 

 

 

兄の決断は早かった。

 

思い出していたのかもしれない。いきなり倒れて緊急手術を余儀なくされた父、意識はなく機械で命をつないでいた。それでも、ほんの少しでも可能性があるなら賭けてみたい。

 

「医者ってのは悪めに言うもんだ。万が一のとき、言い訳がたつからな。」

 

 「手術して治った子、たくさんいるんでしょ」

 

ネットで検索し、回復したケースをみつけてはしきりと言い合っていた。

  

 

生きてほしいと願うのは

 

 

置いて行かれそうな人間のエゴなのかもしれない。

いくら病状を理解したところで、意識のない人・言葉を持たない動物がどんな気持ちでどれほどの痛みに耐えているかは知ることができないのだから。 

 

葛藤を打ち消すかのように

兄はやたら明るく振る舞っていた

   

 

アニサキスハル14 ーわかりやすい意思表示ー

 

家のひょうきん者としてお笑い枠を担ってきたハルだが、実はけっこう賢かったりする。

 

トイレに行きたかったら窓の前で鳴く、お腹が空いたら茶碗をくわえて持ってくる。寒かったら人を押し倒し無理矢理だっこ。

 

やりたいことがはっきりしていて、それを知らせる手段も知っている。

 

試しに呼び鈴おいてみたら

オヤツ目当てに蹴り回すようになり、早々に撤去せざるえなかったほどだ。

 

「フンフンフーンフン」 

 

押し入れの前で鳴き始めたら

 「もう寝るから、ここにしまってある布団を出して敷いとくれ」の意

f:id:kano8:20181028150632j:plain  ↑敷くまでずっと鳴かれる

 

まぁ、たまにうるさいと感じる時もあるが

わかりやすいから助かっていた

 

 

 

そんなある時

 

ちょっと外出して帰ったら居間に謎の水たまりができていた。

 

いくらリンでももう大人、トイレを間違えることはない。 かといってハルは出かける前に済ませているし・・。

 

水を飲み過ぎたリンが吐いた

というのが濃厚だろうという推理に落ち着き掃除する兄。

 

しばらくリンの様子を見ていたが

いたって元気、この事件はすぐに忘れ去られた。 

 

また別の日

買い物から帰ってくると

 

いつものように犬が駆け寄ってくる

 

「はいはい、そんな興奮すんなって」

 

「ワタシはおかえりの意を表す」

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「お前かぁーーー!!」

 

ハル、遅咲きのうれションデビュー

ちょいモレとかのレベルじゃない

   

アニサキスハル13 ー秘密の遊びー

 

ハルは遊び好きだ

 

問題は兄がいつも相手をできるわけじゃなく、妹犬のリンをかまおうにも、リンは力も気も強く怒られてしまう。

 

消去法的に家にいる人間、とりわけ暇そうなヤツの部屋に行く。

 

 

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私はそんな彼女をプリンセス・ハルコーと呼んだ

(閉じたはずの扉を開けて入っているから)

 

そのうち二人の遊びが生まれる。

 

 

1.外国の挨拶

まずフランスの名曲ジェーンバーキン「無造作紳士」をかける。

曲が終わるまでに頬っぺにキスし続けたら私の勝ち

口にキスしたり、鼻にかみついたらハルの勝ちである。

 

顔を近づけると、ハルは反射的に

口と口をくっつけようとする

私はさっとよけて頬にキスする。

右・左と繰り返し徐々に口に近づけていくのだ。

 

キスをするたびハルのフラストレーションはたまり、唇がひくつきはじめる。獅子舞のように目をむき口を半開きにした犬に顔を近づけるのだ、なかなか度胸がいる。これは鼻をかまれるかもしれないというリスクに挑む勇気と、素早く身をかわし頬にキスするというテクニックが要されるエクストリームスポーツなのだ。

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ハルに勝てたことは一度もない。

 

 

2.ルンバに乗る猫ごっこ

 

youtubeなどでよく見るルンバに乗る猫、それを忠実に再現する。

まずは100均で買った円形の座布団を用意。そこにハルが座り、私が引きずる。

 

「ププ、ピプー」

 

起動音を言って座布団をひき、「ウィーーン」と部屋中をめぐる。はたから見たら、バカと犬のおたわむれだが、かがんだ姿勢のまま体重10kgの犬が乗った座布団をひくのだ

 

これは

 

カンヌ映画祭で赤絨毯をしく係、の運動量と緊張感に相当し

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トムハルが飽きるのが早いか私の体力が尽きるのが早いか、命がけの真剣勝負である。 

 

 

 

3.女王様と従者

 

階段の一番上で出会ったとき、背中を向けてしゃがむとハルがのってくる。

 

ズシリ。

 

階段を一段おりるごとに重みが増していく感覚、背中はきしみ首は悲鳴をあげる。しかし途中で降ろすことは許されない。大事な女王様に万が一のことがあったら従者としての名折れ、目的地まで安全快適にお送りするのが私の使命なのだ。

 

居間の扉を開け、床に膝をつく。

そうっとそうっと

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これらはハルと私、二人だけのノリ

みたいなものだと思っていた

 

のだが

 

「ただいま~」

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こっそり兄がマネしてた。

 

(うらやましかったのか)

 

妹の問いかけるような視線に耐えられなかったのか

兄はハルを背負ったまま無言でさっていった。