だからって終わってるわけじゃない

アラフォー、バツイチ、ヒキニート、だからって終わってるわけじゃない・・からツライのかもしんないけど

沖縄編12 ー地獄編ー

 

「あなたは今、地獄にいます」

 

「・・じ、地獄ですか?」

 

「そうそう、これが現在を示すカードだから」

 

「ホントだ~けっこう地獄っぽいですね」

 

小さなテーブルをはさみ占い師さんとむかいあう。

カップルや観光客が物珍しそうな視線を残し、通り過ぎていった。

 

 

 

ソーキそばでお腹を満たしたあと、ワンピースをきた女性に声をかける。

 

「いくらですか?」

 

海外ではめをはずそうとする、中年エロおやじのような問いかけになってしまったことを悔やむ私に、占い師さんは気にする風でもなく料金の説明をしてくれた。

 

ざっと自分のことを話す。

 

昔から何をやっても続かず。人付き合いも下手。最初は好印象を持たれるが、だんだん相手の要求にこたえるのが辛くなり、キレるか消えるか体を壊すかしてしまう。唯一続いた相手とは結婚したが、別れてしまった。今は実家に身を寄せているが家族ともギクシャクしており、引きこもりがちの生活を送っている。

 

口に出すと、ニュースに出てくる事件の容疑者の略歴みたいだ。

 

「お金のことを気にしていますね?」

 

占い師さんがコインが描かれたカードを指して言った。

 

(・・そりゃ最初に料金のこと聞いたし、第一お金のこと気にしてない人なんてこの世にいないと思うけど。)

 

初めての占いを楽しむ気ではいたけれど、ここまで当たり前のことを言われると興ざめしてしまう。

 

そして、次に出たのが冒頭の"地獄カード"である。

 

マジか。

 

今、誰かが私の位置をGPSで確認したら現在地"地獄"と出るの?ウケる。

 

自分はてっきり天国にいると思っていた。日常を離れ、気候のいい南国でたった1人、最高じゃないか。でも地獄なんだよね?

 

「いま」がどのあたりを指すのかにもよるけど

 

この数日であれば天国だし、この1年であればわりかし地獄といえるかもしれない。それともこれまでの人生を総括した結果、現時点の評価が"地獄"ってことなのだろうか?

 

占い師さんの声がだんだん遠のいていく。潜在的に私の耳が現実を知ることを拒んでいるのか、疲れと満腹感が誘発した眠気によるものなのかはわからない。

 

私はぼうっとする意識の中で必死に考えた。

 

(そりゃ離婚もつらかったし、人間不信だし、いいことないけど家がないわけじゃない、こうして沖縄に来ることだってできた。わりかしいい方じゃないの?・・だけどそれは世間一般と比較した場合の"いい"であって、私個人に限って考えれば親や友達や周りの人たちの顔色を見て、よく映るように必死にもがいてでも結局いいように使われて擦り減ってきた。充分"地獄"じゃないの?針山地獄みたいなわかりやすいやつの方じゃなく、真綿で首しめる系のタイプ!私地獄慣れしてた?ぬるま湯で長風呂してたら、お湯と空気の境界線がわからなくなるみたいな?長いこと地獄にいたせいで地獄にいることすらわからなくなっていたのかも)

 

お金のことを気にしているが当たり前のように、地獄にいることも当たり前に感じていることを見抜いたのだとしたら、この占い師さん

 

 

 

 

すご腕

 

 

 

 

夜、ホテルに戻りベッドに倒れこんだ。

「じーごくーじーごくー、たーっぷり地獄っ♪」

 

たらこマヨネーズの音程で自作の歌をうたいながら、明日は邪気払いに朝日を拝みに行こうと決める。

沖縄編11 ー気回し女は楽しみ方を間違えるー

 

(修行めいてきた。)

 

 

ロビーの椅子でうなだれる。

 

"来たからには元をとらねば"という朝食バイキングで胸やけ的な貧乏性が発動して、お笑いの予定を詰め込んだが、自分の体力のなさを計算に入れていなかった。しかも、席は全部前の方、ジャンプして頭から飛び込めば芸人さんの 足首を掴めそうな距離である。

 

気持ちの休まる時がない。

   

もちろん毎日、何百何千というお客を相手にしている人達だ、1日中同じ女がいるからといって気にはしないだろう。しないだろうが・・キモくはないだろうか。 

 

事前に情報を集めていたから、同じ劇場で1日に何度も見る人がいることは知っている。けれど沖縄まで来てそれを実行する人がいるのか?こんな前方の席で!

 

さっき隣にいた人も「次は首里城行こっか」って話していたし、普通は観光の合間とかにチラと見るものなんじゃないの?来る前にさんざん友達に言われたことが、いまになって染みてきた。

 

さらに私を追い詰めたのは、新喜劇の中にあったお客さんを舞台にあげるという演出。選ばれたお客さんは舞台上でリアクションをとらねばならず、そのプレッシャーたるや掃除の時間ふざけていたところをみつかり、ぶちぎれた先生に順番にビンタされていくに同等。

 

次は自分かもしれないという恐怖でいっぱいだった。

 

抜け出すことも考えたが、とろサーモンの久保田さんがネタ中に席を離れるお客さんを見つけ、悲しそうしているのを目の当たりにし、やはり悪いと思いとどまる。

 

もう自分が選ばれないよう祈るしかない。

 

そんな私に声をかけてきた人がいた。

 

「あの~この後ってなにかあります?」 

 

若い女性の二人連れ。次のトークライブのチケットが余っているので、もしよかったら1枚譲りたいという。

 

「今日、何回目ですか?」

 

私は二人に聞いた。

 

「1回目ですけど・・」

 

「私3回目なんです」

 

二人が驚いている。

 

「じゃあ同じネタを何度も?」

 

「まぁはい。なので次は休んでその次にそなえようかと・・」

 

「そうですか」

 

「すいません。」

 

前を向くと不安が襲ってきた。

いまの、言い方に険があるように聞こえなかっただろうか「何回見てると思ってんの?こちとら疲れてんだよ。」って。二人に嫌な気分をさせてしまったかもしれない。振り返って弁明すべきだろうか。「急に声かけられてつい、みんなに聞きたいと思っていた言葉が最初にでてしまっただけなんです」と「見れるかわからないですがチケット買わせて頂きます」と

 

迷っているうち新喜劇が始まった。

 

幸い、端のほうにすごく反応のいいグループがいたので、舞台に上げられるのはその内の誰かになりそうだった。

 

問題の場面、芸人さんが舞台から降りてくる。

 

なんとこちらに向かっているではないか。目を合わさないよう下を向いていると彼は私の向こう隣、空席に挟まれ1人で座っている女性の手をとった!20代前半と思しきその人物は、最初こそ首を振って抵抗していたものの、根負けして舞台に上がる。そしてきちんとリアクションをとって席に戻ってきたのだ。

 

1人なのに!

 

戻ったところで両隣は空席、労ってくれる友達がいるわけでもないのに!!

 

会場から惜しみない拍手が送られた。

照れ笑いする彼女の顔は輝いている。

 

(あれが楽しむということなんだ!)

 

私も彼女のように一人でも楽しみたい。そのために来たのに。

 

新喜劇が終わり、会場を出る。外は薄暗く、夜に冷やされた風がコンタクトの水分を奪っていく。夕食を済ませぶらついているとかすむ目に占いの二文字が映った。

 

(よしっ)

沖縄編10 ーウケるーとキャーー

 

「ウケるー」

 

 

っていう人の気持ちを知りたい。

 

数年前から「ウケるー」という言葉をきくようになった。

 

「ウケるー」単品で使っているのはあまり聞かない、笑いながらだったり、笑った後だったり。たまに全然面白くないことを真顔で「ウケる」ということで、皮肉めいた使い方をすることもあるようだが、たいていの「ウケるー」は笑いとセットで使用される。

 

楽しんでいることは声や表情で充分伝わっているのに、口に出してあえて言う。

 

 

 

何のために?

 

 

 

自分の状態を言葉にしないと不安になる性分なのだとしたら、泣きながら「ナケるー」って言わなきゃならないし、呼吸しながら「イキテるー」って言ってもらわないと整合性がとれない。 

 

もしや「キャー」と一緒なのかな?

 

憧れの芸能人などを前にすると、女の子達は「キャー」と言う。

 しかし冷静に「キャー」の意味を考えると、適切な言葉が浮かばない。

 

人気のアーティストのライブなどで大勢のファンが声を上げている映像をみて、もしかしたら別の言葉を言っているのに人がたくさんいすぎて「キャー」に聞こえてしまっているのではないかと考えた。

 

例えば「○○さん素敵やー!」とか「もっとこっち来(き)いや━!」とか

 

しかし、その仮説は誤りだということをすぐに知る。

 

とあるお笑いライブに行った時、隣の女子高生がはっきり「キャー」と発音したのだ。「キ」に小さな「ヤ」に伸ばし棒のキャーである。その後女子高生は芸人さんの名前を叫び、泣きながら「キャー」と言った。

 

「キャー」は伸ばし棒をはぶいて「キャッ」として利用されたりもする。

 

ぶつかって「キャッ」スカートがめくれて「キャッ」これを言語能力が最も優れている人類が発しているのだ。不思議としか言いようがない。例えるなら

 

 

 

公用語が"ワンワン"である犬が突然「ゴハン」と言ってきたぐらいの奇妙さ。

 

 

 

ストレスというものは、狩猟民族であった人類が危険を冒して命を落とさないよう脳がブレーキをかける役割を果たしてきた。と何かで読んだ。つまりストレスを感じやすい人ほど自己防御能力に優れていて、子孫を残すことができてきた。ということらしい。

 

「キャー」もこの理論にあてはめることはできないか。古来より非力な女性は「キャー」と言ってきた。言うことで周囲に自分の窮地を知らせることができるし、「キャー」に驚いて敵が逃げていく、というエピソードは最近でもたまに聞く。

 

ということは「キャー」が昔から受け継がれてきた生きる術で、使っているうち活用法が広がり、嬉しい時・驚いた時などにも「キャー」を発するようになったのではないか。

 

ちょい待って、じゃあ「ウケるー」は?

 

「ウケるー」は最近できた言葉だ。ストレス理論は通用しない。それにここはお笑いライブを見る会場。面白い話を聞く場所で、面白い話を聞いて笑うのは普通のことなのだ。みんなウケるべくしてウケているわけであえて「ウケるー」というのなら

 

ジョギングしながら「はしるー」と言わなきゃならないし、レジで財布に手をつっこみながら「はらうー」と言ってもらわないと整合性がとれないではないか。

 

もしかしたら自分の位置を知らせるために「ウケるー」を発動しているのかもしれない。舞台にいる芸人さんが友達か恋人で、(私見てるよ、ここにいるよ)と青山テルマ的ないじらしさでウケるー・・いいや、さっきのトリオの時も「ウケるー」していた。てことは、この舞台に立つ全ての芸人さんを手玉に取る小悪魔か、自分の気持ちを口に出して伝えなければ気が済まない極度の心配性ということになるけれど、どっち?

 

斜め後ろに座った女性に、心の中で問いかけているが答えは返ってこない。

沖縄編9 ―モメタクナイ脳―

 

ホテルの前でタクシーを捕まえた。

  

運転手さんは快活な人だった。話しを聞いているうちにあっという間に目的地に到着、メーターを見て私は千円札と端数分の10円玉を置いた。

 

ドアを開けられしばし見つめあう。 

お釣りの「お」と口を開きかけた瞬間、稲妻に打たれた。

 

 

 

(チップか?!)

 

 

 

海外ではサービスの対価として、チップを渡すのが通例だ。沖縄もそうなのではないか、南国だし。運転手さんが不思議そうにこちらをみている。

 

もうこのくらいの釣銭はチップとして受け取る感じなんだ、南国だし!

 

お礼を言ってタクシーを降りた。

 

 

 

ビルに入るとエスカレーターで劇場のあるフロアへ上る。

椅子に座り、魅力的な顔はめパネルを見ていたら 

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ふと昔の記憶がよみがえった。 

 

何年か前、突然プール通いをしたくなった私は水着を買いにデパートへ出かける。

シーズン真っ盛りということもあり、水着売り場は人でごった返していた。売り場中央に専用の試着室、若い女性が列をなしている。

 

私は1着手に取ると(ちょっと合わせるだけだから)と隣の洋服売り場の試着室に入った。

 

下着の上から着ようとするがうまくいかない。しかたなく上裸になって水着と格闘していると・・なにか違和感を感じる。

 

鏡の中に、知らない男がいたのだ。

 

20代と思しき男性は、長身でおそらく試着室の少し離れた場所に立っている。というのも、試着室のカーテン上部に三角形の隙間ができていて、そこに男性の顔がピッタリはまっていたからだ。

 

 

解釈に苦しむ。

 

 

通りかかっただけなら、カーテンをきっちり閉めなかった私も悪い。しかし、鏡越しに見返しても男性は視線をそらそうとすらしない。猫が箱の中からちょっかいをかけてくる映像が浮かぶ。

 

 

こっちから見えていないとでも思っているの?

 

 

困惑していると脳の、おそらく女性的な部分を司る場所から声がした。

 

「カーテンの三角部分を思いっきりしめるべきよ」

 

そうか、普通は「キャッ」とかいって即座に閉める場面だ。

 

 

「だけど失礼じゃない?」

 

脳の、おそらくモメゴトを避けようとする部分を司る場所が反論する。

ものすごく目が悪くて、たまたまぼけーっと見ていた先がこの三角って可能性もあるのでは?でいきなり閉められたら(俺、痴漢と間違われた?!)って思うのでは?(誰がお前なんかみるかブス)ってなるのでは?となると乳を隠そうとすること自体、自意識過剰な行為では?!

 

・・下手したら大騒ぎになる事案。私の乳にそこまでのリスクを背負ってまで見る価値があるとは思えない。

 

なにごともなかったように素早く着替え試着室をでた。

 

男性は水着を物色する女性と一緒だった。

 

(やっぱり、こんなかわいい彼女がいるのに覗きなんかするはずない。)

 

そそくさとその場を去った。

 

 

 

お笑いライブを見終わりホテルに戻った頃には、時計の針は10時を回っていた。

フロントで声をかけられる。

 

「今日タクシーに乗られましたか?」

 

封筒を差し出された。聞くと昼のタクシーの運転手さんが、お釣りを渡すの忘れたからとわざわざ届けに来てくれたらしい。運転手さんの律儀さに感動しながら思わず軽口がもれた。

 

「沖縄のタクシーってそういうものなのかと思いました」 

 

「違いますよ」

 

笑いながらエレベーターに乗る。

そりゃ違うよね~ていうか帰りのタクシーは普通に払ってきたじゃん私。

 

脳の、モメゴトを避けようとする部分を司る場所から声がした。

「でもさ~今回はたまたまでしょ、水着のヤツは違くなくない?だって彼女と一緒だったんだよ?生乳っつったってお前の乳だぜ?どんだけだよ・・」

 

 

「うっさいバカ」

 

呟くと部屋のカーテンをきっちり閉め、ケータイを放りだした。

ベッドに落ちたケータイの画面には、昼間見つけた顔はめパネルの中で微笑む私の姿が映っている。

沖縄編8 ―キレた聖女―

 

4時半に目が覚めた。

 

寝心地の良いベッド、静かなホテル、移動の疲れ、眠り薬。

全てを跳ね除けての4時間睡眠。

 

 

「どういうことだよ」

 

 

自分に文句を言いつつ、起きてしまったものはしょうがない。

きのうの残りを食べながらテレビのスイッチを押した。

画面にはライブハウスで女性が歌っている姿が映し出される。

 

(沖縄のJuJuみたいな感じなのかな。) 

 

若い男性をゲストにバンドの生演奏で歌う女性。

よくよく歌詞を聞いてると神がどうとか、聖書がこうとか

キリスト教関係のライブのようであった。

 

若い人がさりげなく聖書の一説を紹介する映像というのは、私の地元ではまずお目にかかれない。早朝とはいえテレビでやるってことは、クリスチャンが多いのだろうか、宗教の話を特別視しない南国の寛容さの表れにも見え、生活の一部として受け入れられている余裕が感じられた。

 

女性の歌声を聞きながら、過去の旅行を思い出す。

 

同行者のいる旅は出発前から大変だった。宿の手配から行程まで全て一人で請け負い、一緒に行く人の予算・都合・好みを考え旅行雑誌を熟読、スケジュールを組んではみんなの意見を聞いて微調整を繰り返す。雨に降られたり、渋滞に巻き込まれたり不意のプラン変更にも対応できるよう予備の案もいくつか用意しておいた。

 

親と親戚とで金沢に行ったときには特に張り切った。行きたい場所があったのだ。20世紀美術館。展示が凝っていると話題だったし、今後来れる機会もないだろう。出発前からみんなに話していたが、共感を得ることができなかった。

 

私は作戦を変え、特に美術館行きを渋っている母と叔母にお土産タイムを提供する。さらにお土産のカニが入った発砲スチロールを抱え、市場と駐車場を往復した。

 

そのかいあって車は美術館に向かった。建物が見えてくると気持ちが高まる、入り口付近には学生らしき若人がいくつもの塊を作って談笑していた。

 

「混んでるな」

 

途端にみんなの気持ちが萎えてしまい、車は美術館を素通り。そのまま次の観光スポットへと走り出した。

 

 

報われない努力よ。

 

 

思えば料理がいまいち・空調がうるさいなど文句を言われることはあっても、感謝の一言ももらったことがないではないか。

 

 

みんなが楽しんでくれさえすればいい。

みんなの笑顔が私へのご褒美だから。

 

 

なんて聖女みたいな考えの持ち主だったらよかったのに、私は(あれだけやったんだよ?1つくらい私の要望、聞いてくれてもいいんじゃないの?)と心の中で叫んでいた。

 

 

 

だけどこの旅に同行者はいない。

 

誰にも気兼ねすることなくやりたいようにやれる、私は極端な計画を立てた。

 

滞在期間の大半を1つの場所で過ごすのだ。スパでもビーチでもない国際通りにあるビルの1室で。

 

睡眠不足の私はちょっとだけ、宿題を溜めてしまった小学生の気分を抱えながら身支度を済ませる。

 

(まぁ疲れたらホテルに戻ればいいんだし)

 

バッグにお笑いライブのチケットが入っているのを確認して、部屋の扉を閉めた。

沖縄編7 ー正しいホテルの選び方ー

 

ビジネスホテルが好きだ。 

 

お風呂にトイレ・立方体のお手本のような冷蔵庫。狭い室内に必要なものが全部そろっている。ドライヤーの風力不足や夜中の物音など問題点はあるものの、ドライヤーは家からもっていけばいいし、廊下に遠い方に枕を置いて耳詮をすれば騒音も気にならない。(耳詮はあらかじめ1センチ程に切っておくとなおよい、完全に塞いでしまうと有事の際、逃げ遅れる可能性があるからだ。)持ち込みも自由だし、チェックインの時間も融通がきく。1人旅にはうってつけの場所だ。

 

人工ビーチを有したリゾートホテルもとれなくはなかったが、そういうところは、こちらが1人と知るや否や足元を見るように高額な料金を提示してくる。とんだ迫害。リア充専用ならそう書いといて欲しい。

 

私のホテル選びのポイントは「狭さ・清潔感・立地・料金」この4つである。

 

普通は部屋の広さを重要視するものだが、それは複数で行く場合に限られる。1人だと空間が余っている分だけ虚しさが湧くものだし、視界の端に幽霊とかわいてきそうで怖い。(デッドスペースだけにね、なんつって)

 

以前、家庭内別居をしていた頃、夫とケンカになり1人旅に出たことがあった。理由は長年夫が放置していた大量のレシートを私が捨てたこと。夫の主張によると、その中に割引券が混じっていたという。

 

何年も大事に貯めていたのに俺の努力が水の泡だ、どうしてくれる。というわけだ。確かに無断で人のものを捨てた私も悪い。私はゴム手袋をはめ、ゴミ袋を漁った。1枚1枚レシートを検めていく。生ごみひっかきまわしたにもかかわらず割引券は出てこなかった。夫は

 

「混じってたかもしんないって言っただけだし」

 

と子供のような言い訳をし、私は海が見える旅館を予約する。

 

1日8組しか予約をとらない、地味だけど手入れが行き届いた旅館だった。入ってすぐ靴箱があり、奥にトイレと洗面所。障子戸を開けると10畳ほどの和室、床の間には掛け軸と木彫りの置物。コントに出てきそうなオーソドックスな部屋である。

 

最高なのは景色だ、窓から一面海しか見えない。私は窓辺に布団を敷いて、日が暮れるまで日本海の深い青を眺めていた。

 

問題は夜だった。

 

怖がりは想像力が豊かだ。壁の小さなシミ、行燈の灯り、謎の置物。全てにホラーじみた由来を見出してしまう。髪の長い女がいつ現れてきても不思議じゃない雰囲気だ。夜中にトイレに起きてもいいよう、入口の電気はつけっぱなしにしていたが、障子戸を破って無数の手が伸びてくる映像が浮かび、布団から出られない。トイレは朝まで我慢した。

 

それから1人旅ではビジネスホテルを利用している。

  

ベッドに占拠されたような小さな部屋は、幽霊に出る隙を与えない。配置によってはお風呂につかりながらテレビを見ることもでき、チャンネルを変えるため素っ裸で出て行こうが咎める者もいない。まさに天国。

 

私は沖縄に滞在するにあたり、ホテルの候補を3つに絞った。

 

1つ目は海にほど近く比較的新しい所、キッチンがあり自炊も可能な滞在型のコンドミニアムだ。料金も手ごろで申し分なかったのだが、広すぎるので却下した。

 

2つ目は家族経営らしいこじんまりとしたビジネスホテル。なにより気になったのがそこの宿泊プランである。"女性に限り占いをサービスします"オーナーの奥様が趣味で手相占いをしており、無料でみてくれるらしい。占いに特別興味はないが

 

趣味の

 

手相を

 

サービスとして提供するという考え

 

 

 

 

 

・・ものすごい惹かれる。

 

 

 

さらに説明を読むと、"女性に限定しているのは男性だと恥ずかしいから"と書かれており、オーナー夫妻会いたさに予約ボタンを連打しそうになった。ここは立地の問題で断念。

 

3つ目のホテルは最高だった。清潔で狭くて静か、重いドアを開けた瞬間一目で気に入る。荷物を広げ、使い捨てスリッパに履き替えると、小さな机にスーパーで買ったお惣菜を並べた。

 

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グルクン・・原型がどんなものか知らないがとてもおいしい。

 

(ああ1人、ここに私を知る人は誰もいないんだわ。)

 

ふいに多幸感に襲われる。グルクンをさんぴん茶で流し込みながら、ビジネスホテルに永住する自分を夢想した。

 

しかし、その時の私はまだ知らない。結局私は占いをしてもらうことになり、そこで衝撃の宣告をうけることを

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたは今、地獄にいます。」

沖縄編6 ー無感動観光ー

 

ビーチは空いていた。

 

私の他にはカップルが1組と観光客らしい人たちが数人、ぽつんぽつんと歩いているだけだった。日傘を差し、砂浜に足を踏み入れる。

 

(ようやく来たのね)

 

沖縄に来た目的の1つは海だ。絵にかいたような白い砂浜に青い海、それらを眺めながら何時間でもぼーっとしていたい。今の私にはなにより必要なことだ。

 

 

 

轟音がして見上げると頭のすぐ上を飛行機が飛び去っていく。

 

 

 

 

 

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あの飛行機の中にも私と同じように、妙なテンションでやけくそ気味に旅行を計画し、しかし当日、完全に他人に命を委ねる段になってみると急に命が惜しくなってパニックになりかけるが、それを伝える相手もいないので、ただただ座席にしがみつき歯を食いしばっている人がいるのだろうか。

 

 

 

(いないな)

 

 

視線を海に戻すとバサと日傘が裏返った。

 

風が強い。

 

優雅に浜辺を散歩しているつもりが、風にあおられ日傘と格闘、これでは台風中継のお天気キャスターだ。

 

一応レジャーシートも持って来てはいたが、寝転がり談笑しているカップルの横でシートを広げその間、風に煽られ逃げていく日傘を追いかけたりと1人おたおたしている自分の姿が浮かびやめておく。

 

反対側に首をめぐらすと大きな看板が目についた。

 

 

 

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(ハブなの?クラゲなの?)

 

 

ハブもクラゲもしょっちゅうでるから両方を略して呼ぶのが沖縄流なのだろうか。もしくはハブクラゲという名の生物がいてそいつがとても危険だと?その場合どっちの成分が多めなの?ヘビよりなら砂に潜んでクラゲのように刺してくるとか、クラゲよりなら海の中で待ち受けてハブ並みの毒で攻撃してくるとか、ご周知のハブクラゲみたいに書いているけど本州からきた人間にはピンとこない、字面で想像が膨らんで恐怖ばかりが増していく。

 

警戒しながら波打ち際まで歩いた。

 

 

 

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・・謎の漂着物

 

(ワカメなの?昆布なの?)

不気味な茶緑の球体は、海と浜の境界線をしめすように、ゆらゆらと波打ち際を漂い来た者の入水を阻む。

 

ワカコンブめ。

 

波と戯れる気を失くした私は、日傘と格闘しながら波打ち際を歩いた。石造りの展望台。近くに石碑がある。読んでみると・・

 

 

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少し前の映画のワンシーンを撮影した場所。私にとっては、見たことない映画の見てないシーンを撮影したことを示す石。

 

「そっか、そっかぁ・・・」 

 

独り言ちながら静かにその場を離れた。

滞在時間15分。日傘をたたみ車に戻る。